小口健蔵が行く。パークマネジメントの最前線!『フローラルガーデンよさみ』がかなえていること

ランドスケープデザインNo.115 August 2017 掲載
連載 小口健蔵が行く。パークマネジメントの最前線! 
第1回 『フローラルガーデンよさみ』がかなえていること

取材・文=小口健蔵  写真=加藤雪邦、小口健蔵  資料=近藤かおり

1.連載をはじめるにあたって
 世の中が大きく変わろうとしています。そう、公園の世界がです。17年前、東京都の造園職として勤務していた時から『公園経営』、つまり今日いわれる『パークマネジメント』が必要なことを唱えてきました。昨年5月に国土交通省が発表した『新たなステージに向けた緑とオープンスペース政策の展開について(新たな時代の都市マネジメントに対応した都市公園等のあり方検討会最終とりまとめ)』は、そうした取り組みが必要なことを伝えています。そして、この4月に都市緑地法等の法律の改正が行われました。

この連載では、こうした新しい時代にあって全国10万か所の公園がその持てる力を大いに発揮し、市民のための公園づくりがさらに進むことを応援しようと、日本のそして海外も含めた公園におけるベストプラクティスを紹介し、読者の参考にしていただこうという企画です。

 さて、連載第一回で紹介するのは、愛知県刈谷市にある『フローラルガーデンよさみ』です。

 その詳細をレポートする前に、筆者がなぜ、公園経営が重要だと考えたきっかけの話をしましょう。

2.日比谷公園100年記念事業で考えたこと
 2003年のことです。日比谷公園が100年を迎えました。何とか祝いたいと考えたのですが、財政危機でお金がありません。東京都の公園予算は惨憺たる状況でした。なんとか祝いたい。しかし、予算がない。でも、何を祝うのか。このままでは、ますます公園がボロボロになってしまう。現状を打開したい。未来の公園を考えようと公園の使い方に着目しました。

 それは何か。使いたいのに使わしてくれないなど、公園を静的な利用にとどめている現実がありました。そこで、財界人も入れた100年実行委員会を結成し、公園を活用する様々なイベントを民間の知恵と資金で実施することにしたのです。

 その結果、行政では思いもつかない魅力的なイベントが次々に提案され、実行に移され、それはそれは、とてもエキサイティングな経験でした。この経験から、私たちは、新しい公園の価値を発見しました。公園が果たさなければならない役割を深く認識したのです。

ここから、東京都の公園政策は大きく転換しました。公園経営をより進めるためのパークマネジメントマスタープランを作成し、民間からの寄付を集める仕組みもできました。企業などが公園でイベントができるよう規制緩和し、さまざまなステークホルダーと協働して公園管理する方向に転換したのです。2004年のことです。

 この時の経験が基礎になり、私自身は、今は、全国から呼ばれてパークマネジメントのアドバイスをしています。

3.社会の課題解決に公園は力を発揮できる場所。それも公園らしさを生かすことを考えたい。
 私は、公園には社会の課題を解決する力があると考えています。公園が発明されたのは産業革命期のイギリスです。それはその当時の社会の課題を解決するためでした。それが世界に広まり、日本も明治維新後に導入したわけです。

 公園には、レクリエーション、都市の骨格の形成、景観づくり、環境保全、コミュニティ形成の場、防災などの役割があり重要だということで日本全国各地に整備されてきました。いま全国には10万か所、12万fの都市公園があります。

 しかし、これらの公園が今の時代に本当に使われているのか、社会のために役立っているのかなど疑問に思えることが、数々あります。今日、日本の社会には様々な社会の課題があります。

 こうしたことを、解決しなくては世の中はよくなりません。それも、公園らしい特性を生かして出来ることはたくさんあるような気がしています。例えば、公園に花があり、多くの人がそれを楽しむ中で、社会の課題も解決出来たら何と素晴らしいことではないでしょうか。

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フローラルガーデンよさみの質の高いイングリッシュガーデン

4.フローラルガーデンよさみで驚いたこと
 よさみについては、去年の9月に行くまで知りませんでした。訪ねてびっくりです。

 何に驚いたかというと、
@フローラルプラザという建物があり、そこを様々な形で生かしていること
Aイングリッシュガーデンの質が高いこと
B年間2万ポットもの草花の苗をボランティアと一緒に種から育てていること
C作っている苗の種類がプロ級だったこと
Dもともと整備されていたイングリッシュガーデンや園地、建物をリニューアルして価値を増していること
E公園を飛び出して地域の花壇づくりも指導していることなどです。

 あまりに驚いたので、どうしてこんなことが出来ているのかを深く知りたいと思い、翌月に再訪しました。その時には、ガーデンボランティア『よさみジャルダンクラブ』の方々とも会え、生き生きと活動している姿を見て、またまた驚きました。ま、何と楽しそうにガーデンの草取りをしたり、おしゃべりをしていることかと。

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フローラルプラザで毎月開催されるガーデンマルシェの様子

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ガーデンボランティア「よさみジャルダンクラブ」の方々と

5.フローラルガーデンよさみで実現できていること
 私が考えていたことがここ、フローラルガーデンよさみで実現できていることに気が付きました。日本にもこうした公園があるんだとびっくりしました。

 では、どうしてこうした公園が出来たのでしょうか。

 まず、刈谷市役所の取り組みです。米軍から返還されたこの地に公園を計画し、市民が花と緑に親しむ公園として10年前に整備しました。そして、民間の知恵を活用しようと指定管理者制度を生かして、仕様書で「市民が花と緑に親しむ公園としてよさみらしさを発揮してください」と注文をつけました。そして応募者を吟味したのです。

 指定管理者に応募したコニックスはどうでしょうか。刈谷市の注文に答えようと、事業企画書を練り上げました。

 公園の管理運営というのは、@植物管理 A施設管理 B清掃 C利用サービス D巡視・警備 E広報宣伝 F行催事 G市民協働 H地域連携など多岐にわたります。

 植物管理で花と緑に関して様々な提案をします。具体的には、種から育てる庭づくりを導入して、専任のガーデンスタッフとボランティアにより苗づくりをしながら景観をつくり、人の集まる公園にしようというのです。

 そして、ただ言葉で提案するだけでなく、実際に現場で実行できるスタッフがいて、指定管理の実績もあり、ここでも力を発揮できますよと証拠を提示して審査員の評価を集めます。

 物事をよくするためには競争がないといけません。フローラルガーデンよさみが目指すべきところをどう実現させるかが事業計画書の中に込められていなければならないのです。

 さて、素晴らしい事業計画書ができても、まだそれば絵に描いた餅です。それを現実のものにしなくてはなりません。

 現場に常駐するスタッフと現場をサポートする本社との連携で、初めて取り組む仕事で様々な戸惑いや困難もあったでしょうが、うまく乗り越え、このような公園管理運営ができているのだと思います。

 なぜ、上手な仕事ができているか。いろいろ観察したり、インタビューしてみました。そこでわかったことを幾つか上げてみましょう。

 ひとつは、ベンチマーキングがうまくされているということです。ベンチマーキングというのは優良な事例についてよく学びその手法を目標にして、自分達なりに工夫して、現場で実現させることをいいます。東京都が今から14年前に始めた「思い出ベンチ」という名称の寄付ベンチは、ニューヨークのセントラルパークでやっていた寄付ベンチの手法をまねさせていただきました。これがベンチマーキングです。

 ここ、よさみでは、ガーデンの管理手法をイギリスの庭園管理をベンチマーキングして、よさみに定着させています。イギリスのガーデンでは、ヘッドガーデナーを中心に専属のガーデンスタッフが管理しています。それをよさみに応用しているのです。ボランティアの導入もイギリスのナショナル・トラストのやり方を、その精神まで含めて取り入れています。

 こうしたことは、そう簡単にできることではありません。当然現地を訪ね、深く調べなければわからないことです。そういうスタッフがいるということです。

 また、ボランティアの活躍が大きいです。「市民が花と緑に親しむ公園」にするには、刈谷市から貰う指定管理料は限られています。工夫が必要です。また、指定管理者のスタッフだけでできることではありません。ボランティアが、スタッフの熱い気持ちに答えて働いているので、この公園が出来上がったのです。
そんな公園は世の中にはそう多くはありません。

 二つ目は、仕事の裁量がいい形で現場にゆだねられていることです。本社からあれをしろ、これをしろという指示が出てやるのではなく、本社が現場を信頼し、現場が考えたことを支援しているのです。信頼されるから、任されるから、担当者は責任を持ち仕事を全うできるのでしょう。これは、本社と現場との関係だけではありません。事務所のボードを見ればわかるのですが、例えばスタッフやボランティアがする作業についても、信頼と自立が基調にあり、本日の作業項目が書いてあるだけで、それを見て自ら考え、自ら行動する仕事の流れができているのです。

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6.チーフガーデナーを中心にガーデンスタッフが公園を管理する仕組みはどうしてできたのか?
 チーフガーデナーの近藤かおりさんに聞きました。愛知県西尾市の園芸農家に生まれ、恵泉女学園短大園芸生活科で学び、もともと種まきが好きで、カタログで海外の種を取り寄せ、子育てをしながら自宅で種から育てる庭づくりをしていました。そして、植栽を中心とする個人庭専門の会社を創業します。イギリスにガーデンの勉強に行き、そのレベルの高さや、植物の種類の多さ、流通の充実を知り、日本ではあまり流通していない春咲き一年草を種から育て、庭好きを増やす活動を始めます。2010年から国際バラとガーデニングショーのガーデンコンテストに仲間とともに出展し、2011年には優秀賞を受賞します。この受賞の新聞記事がきっかけとなりフローラルガーデンよさみの指定管理者応募のための事業企画書づくりに参画することになったのです。

 近藤さんは面白いことをいいます。公園管理運営の企画づくりは、ガーデン設計そのものだというのです。「@施主の要望 A環境と材料の確認 B必要なものを美しく配置 という流れが同じなのです。市役所の要望は、花の溢れる公園をつくること、市民協働や交流の場をつくること、他にはない運営アイデアを提示することです。これに対して、園内の状況や協力してくれるステークホルダーの存在などを確認し、無理なく自然な感じで様々なことがらを配置し、ふさわしいイベントを組み込み、その場所が心地よくまた楽しく感じ、いつまでも眺めていたい景色をつくること」と。

 そして「よさみの仕事に出会ったときには、ライフワークとして植物を種から育てられる人やガーデナーを日本で増やすにはどうしたらいいかと思案していました。また、イギリスのように日本でもガーデナーの仕事を確立させることを何とかしたいとも考えていました。よさみの企画を立てていく中で、この公園で仕事としてガーデナーの育成ができること、市民サービスとして園芸情報を発信できることなど、自分が求めていた理想の環境が公園の中につくることが出来るということに気がついたのです」と話します。これが、常駐のガーデンスタッフがいて、花苗を種から育てるボランティアがいる公園が実現した要因です。

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7.フローラルガーデンよさみが、かなえていること
○園芸ボランティアの育成
 よさみジャルダンクラブの「ジャルダン」はフランス語で庭のことです。ネーミングもエッジが効いてしゃれています。種まきからポット上げ、植栽、花壇管理が仕事です。毎週1回20人以上が集まります。当番制でやっているわけではありません。都合が悪ければ連絡なしで休んでもいいのです。義務感に駆られることなく、作業を通じて植物の知識を得るだけでなく情報交換や人とのつながりを作ることが楽しいことが、年々参加者が増えている秘訣なのでしょう。年間2万ポットの一年草を種から作ることが出来、ローコストで園内に花壇を広げる原動力となっています。

 ボランティアだけでなく一般市民も花植え活動「みんなでつくるフローラルガーデン」に参加できます。園内栽培の一年草を植栽してもらうのと同時に花苗をプレゼントし、花の成長を公園内だけでなく自宅でも楽しみ、種から育てる裾野を広げようという趣向です。

○地域の課題解決に貢献する場
 刈谷市は自動車製造業に関わる企業が多い街でもあり、子育て世代が安心して暮らせる環境を用意することも大事です。公園では、こどもたちが自由に外遊びができる活動としてプレーパークを毎月1回開催しています。幼児向けのプレーパーク「小さなお庭」も毎週木曜日に開催し、子育て支援の場としています。

 また認知症の方やその家族が安らげるところとしてフローラルプラザのガーデンが眺められるカフェを「ほっとカフェ」と命名し月2回実施しています。さらに公園のある高須地区の「あいさつと花いっぱい!住みたい街づくり」に協力し、種から育てる花壇づくりの栽培指導もしていますし、障害者の授産施設である「すぎな作業所」に公園で収穫した種を提供し、種まきとポット上げを指導し、作業所の花壇づくりもしています。一部の苗はよさみのユニバーサル花壇にも植栽しています。

○賑わい創出
 「よさみガーデンマルシェ」を第1日曜日に開催しています。無農薬有機野菜やアート作品、手作り菓子などこだわりの商品を扱う店が30店舗以上並びます。出店には書類選考、面談があり、厳選した店のみが出店できる仕組みにして、レベルが高いマルシェとして定着させています。

○障がい者の雇用
 ガーデンスタッフとして障害者を雇用し、本人の描いたイラストを元に花壇を作りなど様々な園内作業をしています。

 こうしたことに取り組んだのは、筆者(小口)の講演『社会の課題解決に貢献する公園づくり』を近藤さんが聞き、次の5年の提案の中に社会の問題解決に意識して取り組む内容を盛り込むことができたからだと言います。

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近藤かおりプロフィール
公園管理運営士。株式会社フィーカ代表。愛知県生まれ。恵泉女学園短大園芸生活科造園専修卒業。1998年「ケイズガーデン」を設立。2010年〜2012年「国際バラとガーデニングショウ」に欧州建材チームの植栽担当として出展。それぞれ奨励賞、優秀賞、大賞(国土交通大臣賞)受賞。2012年よりフローラルガーデンよさみのチーフガーデナーとしてガーデンを中心とした公園管理、イベント企画、運営に携わる。2016年「株式会社フィーカ」設立。公園を中心として植物と暮らしをつなぐ事業の拡大を目指す。

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8.取材を終えて
 花に溢れた公園を実現してほしいという市の要望をかなえただけでなく、よさみの特性、つまりイングリッシュガーデンを生かし、専任のガーデナーが常駐する体制をつくり、種から育てて美しい花を咲かせることで、ボランティアの生きがいを作り出し、訪れる人々を喜ばせ、子育て世代、高齢者、福祉などに関わる様々な地域の課題の解決に貢献する取り組みをたった5年のトライで実現しています。

 この4月末にフローラルガーデンよさみの10周年記念式典が開催され、筆者も第三者としてよさみを評価し、その内容を講演で話してほしいと呼ばれました。

 会場には刈谷市長、市議会議員の方々、地元の有力者・協力者、商工業者、ボランティアの皆さんなど公園に関わる方が集まりました。参加者は、公園を客観的に見てどう評価されるのか真剣に耳を傾けてくれました。私から、どうぞ、この公園は刈谷市の自慢の場所だと自信をもって全国に喧伝してください。そしてさらに皆さんで力を合わせて公園を磨いてくださいと話させていただきました。

 観光協会の会長さんが、指定管理者の選定委員長もされたといいます。公園の来園者も格段に増え、隣接地を新たに買い駐車場を拡張するという計画だという話を市長が挨拶で表明してくれました。

 ステークホルダーを味方につけ、協力してもらうことパークマネジメントの醍醐味でもあります。

 是非、読者のみなさん『フローラルガーデンよさみ』を訪ねてみてください。「よさみジャルダンクラブ」の活動日、毎週金曜日午前中がお奨めです。

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■フローラルガーデンよさみ
・依佐美送信所跡地利用の刈谷市立公園
・面積34,300u
・依佐美送信所記念館のほか、公園管理事務所や集会所機能をもつ建物フローラルプラザ内にカフェ、その周りにイングリッシュガーデンや親水施設があり世代を問わず利用されている。
・遊具やせせらぎ、多目的広場があり、休日にはミニSL(有料)も運行し、親子連れに人気
・2007年にオープン。2012年に指定管理者がコニックス鰍ノ変わりリニューアルオープンした。

小口健蔵プロフィール
公園プロデューサー。小口健蔵オフィス代表。長野県生まれ。千葉大学造園学科卒業。東京都職員として、街づくりや公園緑地の計画・設計・整備・維持管理・運営管理など30数年間にわたり従事。建設局公園緑地部長を最後に退職。公益財団法人東京動物園協会常務理事、一般財団法人公園財団常務理事・公園管理運営研究所長、World Urban Parks Inc.初代理事を歴任。「思い出ベンチ」の発案者。日比谷公園100年記念事業でプロデューサーを務め、パークマネジメントの重要性を世に知らしめた。「パークマネジメントのヒント−小口健蔵の実践的公園経営論ブログ−」で情報発信を続けている。









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